車に閉じ込められ亡くなる子どもの事件が相次ぎ、心を痛めた大富豪は、財団の研究員たちに対策を練るように命じた。
数ヶ月の激しい研究ののち、研究員たちは大富豪のもとにメガネに似た光学機器を持ってやってきた。
それを両目に装着すると、閉じ込められた子どもを即座に見つけ出すことができるのだという。
大富豪はなんでも自分が一番でないと気が済まなかったから、誰よりも先にその装置を試してみた。
すると、彼の目の前に、一面の雪景色が広がった。銃の音、爆発音、悲鳴のなか、傷ついた子どもたちが凍えているのだった。
「なんだ、これは」と大富豪はメガネを外した。
研究員たちが調べると、それはウクライナの戦場だった。
「どうやら、センサーの感度が弱すぎて、ウクライナに閉じ込められた子どもたちに反応してしまったようです」 研究員たちはセンサーを調節し、再び大富豪に渡した。
メガネを装着した大富豪は「おや、学校が見えるぞ」と研究員たちに報告した。しばらくすると、大富豪の様子が変わった。両手を勢いよくあげ、別人になったかのようには叫びだしたのだった。
「子どもたちを学校に閉じ込めたらあか〜ん! 俺は解放するんや〜、少年革命家や〜!」
「いかん!」と研究員たちは大富豪の顔からメガネをひったくった。調べると、どうやらピントが合っていなかったようなのだ。それで、大富豪は正気を失ってしまったのだった。
研究員たちはピントを調節し、感度をよりいっそう高め、大富豪に装着した。
「うむ、よく見えるぞ!」と大富豪はビルのてっぺんから街中を見回した。「どうやら、いまのところ、閉じ込められた子どもはいないようだ……いや! 反応あり!」 彼は街の一角を指差した。「あそこだ! 直ちに救出に向かうぞ!」
大富豪と研究員たちは、レスキューセットを持って現場に到着した。そこは広場だった。だが、車もなければ、子どもが閉じ込められそうなものもなかった。ただ、一人の男がいて、泣き叫んでいるのだった。
大富豪は取り乱した男に話しかけた。
「閉じ込められた子どもの救出にやってきたものだ。我々がくればもう安心だ。いったい、どこに子どもがいるのだ」
男は自分の胸を指した。「ここです」
「ここ?」
「そう、私の心に幼い頃の私が閉じ込められて、泣いているのです!」
男はそう言うと「苦しいよ」とか「助けて」とか言いながらのたうちまわった。
大富豪は研究員たちを見た。研究員たちはみな黙ってうつむいていた。
メガネは廃棄処分に決まった。