今日の夕食はキムチ鍋を作ることにした。
夕方にちょっと出かける用事があったので、帰ってきてからすぐ作れるように野菜を切っておいた。下拵えをしているあいだ、冷蔵庫にトック(韓国の餅)の残りがあったのを思い出した。この機会に必ず使ってしまおうと考えた。
夕方の用事ののち、私はスーパーに寄り、豚肉など家にない鍋の具材を買った。店内を巡っているとき、私はトックのことを思い出した。入れ忘れないように、冷蔵庫から出しておこうと決めていたのに、それをすっかり忘れていたのだった。
「どうして忘れてしまったのだろう、あんなに気をつけていたのに」
すると、おかしなことが起きた。不意にトックが、実在しない恋人や懐かしい人の記憶に結びついているような気がしだしたのだ。私はこの奇妙な印象をもてあそびながら、買い物を済ませた。
私は帰宅し、鍋を作り、夕食を食べた。
そして、トックを入れ忘れたのに気がついた。
*ところで、なぜトックが、身に覚えのない記憶を呼び覚ましたのだろうか。おそらく、私が、スーパーでトックのことを思い出したときの思考パターンが、松任谷由実の「どうしてどうして私たち、離れてしまったのだろう、あんなに愛してたのに」の思考パターンと一致していたからであろう。それで、あたかも切ない追想がなされたかのような気分になったのだ……