苦い文学

生まれる前の記憶

幼児のある時期に、生まれる前の記憶を語りだす子がいる。

例えば、母親の胎内にいたときにこんなことがあった、とか、生まれるときはこんなふうに出てきた、とか語るのだが、奇妙なことに、親はそれに思い当たる節があるのだ。

また、それ以前の記憶を語る子どももいる。「神様のところで遊んでいたんだよ」とか、「空の上からお母さんを見つけて気に入ったのでお腹の中に入ったんだ」などと言っては、親を神妙な気持ちにさせるのだ。

友人の息子が、3歳のとき、急に生まれる前の記憶を話しだした。ただしその記憶は少し変わっていた。幼いながらに一生懸命語ろうとするその言葉を総合すると、どうやら精子の時の記憶を語っているようなのだ(もっとも、そういう例もある)。それはこんな内容だ。

その子が精子だったとき、他の精子たちと競走になった。彼は一生懸命走って、とても大きな家(子宮と思われる)に1番で入ったのだという。

しかし、負けた精子の中でもっとも大きい精子が、「不正があった!」「受精が盗まれた!」と騒ぎだし、その親玉精子に賛同する精子たちが、おかしなかぶりものを身につけ、暴れながらその大きな家に侵入してきた。これが「すごくイヤで困った」のだそうだ。

生まれる前の記憶を語るこの物語をどう解釈するかはともかく、陰謀論との戦いは、我々が生まれるずっと前から始まっていることは、確かなようなのだ。