苦い文学

10分の1のやさしさ

私の祖父は若い頃は非常に苦労したようだが、懸命に働いて事業を大きくし、老境に入るころには、裕福な暮らしができるまでになった。

祖父は私が小学生のころ亡くなったため、それほど記憶があるわけではない。家も遠かったので、年に1度か2度しか会う機会もなかった。

わずかに思い出せるのは、祖父がこんなことをよく言っていたことだ。

「お金持ちや偉い人には精一杯やさしく接しなさい。お金を持っていない人や偉くない人には、その10分の1ぐらいのやさしさで十分だ」

どうしてこの言葉が記憶に残っているかというと、「お金を持っていない人や偉くない人」がかわいそうだと、子ども心にショックを受けたからだった。

その後、大きくなり、世界というものがやや見えてくると、祖父の言葉が残酷に思えてきた。「お金を持っていない人や偉くない人」にこそやさしくすべきではないだろうか? 「お金持ちや偉い人」などは放っておいたって誰かがやさしくしてくれるにちがいないのだから。

そして、私は社会に出て働きはじめ、何十年と経った。人生には浮き沈みがあるが、私の場合は沈みのほうが多いようだった。

そのせいか、私はいま、祖父の言葉を違うふうに理解できるようになった。

「10分の1」でも破格の多さなのだ。通常はゼロだ。