大尉が尋問室に入ると、兵士が「こいつ、まだ吐かないのです」と言いながら、中央に座らされた男を指差した。
血まみれのその男は死んでいるように見えた。
大尉は調書を見た。「一番好きなビートルズの曲:レット・イット・ビー」……こいつは手強そうだ。彼は兵士に告げた。
「電圧を上げろ」
「しかし、大尉どの、それでは……」
「やれ」
兵士が取り掛かると、男は凄まじい悲鳴を上げ、まるでおもちゃのようにガクガクと震えた。
大尉は止めるように手で示す。そして、男に歩み寄り、その髪の毛を掴んで、顔を上に向けた。
「さあ答えるんだ。ビートルズのベストソングは何かね」
男はかすれ声で言った。「ハ…ハニードント…」
大尉は、兵士に、男を連れ去るように命じた。
その日もまた、いくつもの尋問が大尉を待ち構えていた。
次は大学教授だった。「ヘイ・ジュード」がビートルズの名曲第1位だと学生に教えた罪で逮捕されたのだ。これは大した手間はかからず、一発殴っただけで「ユー・ノウ・マイ・ネーム」だと白状した。
「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」を一番いい曲だからと知人に勧めていた女も連行されてきた。密告したのは実の息子だ。女はかなり拷問に耐えたが、結局一番は「ティル・ゼア・ウォズ・ユー」だと認めた。
この日とくに骨が折れたのが、学生の活動家だった。彼の反抗的な態度を改めるのに、非常に激しい拷問を実施しなくてはならなかった。最終的に学生は「ヘルプ!」がビートルズのベストソングだというのは誤りで、本当は「Komm Gib Mir Deine Hand」だと供述した。
すべての尋問が終わった。大尉は、書記がまとめた1日の記録に満足げに目を通し、署名をすると、尋問室を出た。
自宅に戻り、制服を脱ぎ、一人で簡単な夕食を食べる。
……真夜中になった。大尉は、ドアの鍵がちゃんとかかっているか、窓がしっかり閉まっているか確認すると、蓄音機の前に立ち、ごくごく小さな音量で「イエスタデイ」を流した。