苦い文学

キクラゲ

何年か前、都内の豚骨ラーメン屋に行ったときのことだ。メニューを見ると、外国人観光客もよく来るのか、英語が併記してある。

キクラゲ入りのラーメンの表示を見ると、こんなふうに書いてあった。

Ramen with Jew’s Ear

Wikipedia で調べてみると、古くからヨーロッパでは、キクラゲを「ユダヤ人の耳」と呼ぶのだという。新約聖書のイスカリオテのユダが首を吊った木から生えてきたという伝承に由来し、もともとは「ユダの耳」と呼ばれていたのが「ユダヤ人の耳」となったそうだ。

この呼称がユダヤ人差別にあたるかどうかは、いくつか意見があるようだが、誤解を生みそうな名称は避けるにこしたことはない。

それに「ユダヤ人の耳を大盛りで!」では、あまり食欲もわかない。

おそらく、英語のメニューを作成する時に「キクラゲ」を調べたら「Jew’s Ear」が出てきたのであまり深く考えずに採用したということだろう。

最近では中国の食品も簡単に手に入るようになったが、即席麺のかやくにキクラゲが入っていて、やはりそのパッケージに「Jew’s Ear」と書いてあった。これも同じように深く考えずに採用したものとみえる。

さて、それからしばらく経って、また件の豚骨ラーメン屋にいったら、キクラゲラーメンは「Ramen with Wood Ear」に変わっていた。漢字の「木耳」をそのまま英訳したものだ。

こっちのほうがずっといいし、これなら、禁じられたミミガーを食べられるとの噂を聞きつけて、ナチスの残党が団体で来店する危険はほぼなくなった、と言えるだろう。