苦い文学

バカなおじさんの進言

安倍晋三元首相を生き返らせたおかげで、バカなおじさんの人生は一変した。

蘇った安倍さんが作った政治団体「帰還者の会」の事務局長を任されたのだ。

この団体は、安倍さんをみたび首相にすることを目的としていた。

全国の岩盤支持者(これらの人々の頭は岩のように硬いため、こんなふうに呼ばれる)に「とりもどす」覚悟を求めたり、朝日新聞を嘲笑したり、北朝鮮への固い決意をツイッターに投稿したり……、バカなおじさんは毎日忙しく過ごしていた。

ある日、バカなおじさんは安倍元首相にこう進言した。

「以前のように、こんな人たちに負けるわけにはいかない、と発表したらいかがでしょうか。そうすれば、愛国者たちがもっと私たちの活動を応援してくれることでしょう」

「そうしましょう」と安倍元首相がニコニコしながら言った。

バカなおじさんはさらに提案した。

「あんな人たちにも負けるわけにはいかない、とも言ったらどうでしょうか。効果は抜群です」

すると、安倍元首相の顔から笑顔が消え、がたがたと震え出した。「あんな人たち……あの世の人たち……」

「あの世」にいた時のことを思い出してしまったのだ。

「あんな人たち、ダメ、こわい、こわい……」

あの世では忖度が効かなかったにちがいない、とバカなおじさんは安倍元首相がかわいそうになった。