苦い文学

ゲストハウスの怪

2019 年 6 月、私はビルマに一泊だけして帰ってきた。一緒に行ったのは、国際政治の研究をしている人で、私は彼と日本語学校などを見て回った。

旅行に行くときは、私は行き当たりばったりで宿なども取らずに行くことが多いが、そのときは同行者が予約してくれた。

一泊千円のゲストハウスだ。個室は個室だが、壁は天井にまで達していないので、音などは筒抜けだ。

私と同行者以外にも宿泊客はいたようだが、姿は見かけなかった。私たちは、それぞれの部屋に入り寝ることにした。

ベッドの上に横になり、いろいろと考えごとをしていると、隣からその物音が聞こえてきた。ベッドの軋む音、喘ぎ声、肌と肌がぶつかる音……。

隣にいる見知らぬ二人の性行為が始まったのだ。

その生々しい物音で私は寝るどころではなくなった。壁を叩いて停戦を呼びかけるという手もあったが、それがかえって戦火を激しく燃え立たせるおそれもあった。

そんなわけで私はなにもせず、ただ隣の「射ちてし止まん」の時至るのを待って、眠りについたのであった。

翌朝、私と同行者は顔を合わすや、笑わずにはいられなかった。私たちは互いの困惑について口にしあった。私は言った。

「なにしろ、隣でしたからね」

すると彼は言った。「えっ、隣? 隣は誰もいないのでは?」

では、私の聞いたあの物音はいったい……?!

隣の隣かも……。