ルカの福音書(12章33節)にこう書いてある。
「自分の持ち物を売り払って施しなさい。擦り切れることのない財布を作り、尽きることのない富を天に積みなさい。そこは、盗人も近寄らず、虫も食い荒らさない。」
神を信じること篤き我が友が、もっとも愛した聖句だ。
そして、彼は、この言葉の通りに生きた。彼は、自分の生活のために必要なわずかな金額を除いて、手にした富をすべて貧しき人々の施しとしたのであった。
彼は家族もなく、家も財産もなかった。彼の喜びはただ一つ。これまでになした善行を振り返り、天に積んだ富の総額を数えることだけだった(彼には独自の帳簿があった)。
ああ、その富はいかばかりのものであったろうか。あまりにも多量の富ゆえに、擦り切れることのない財布もはち切れるのでは、と彼はいつも心配していた。
また、泥棒も虫も近づかないかわりに、その富を狙って怪しげな投資の誘いが来たらどうしよう、と彼には心休まる時もなかった。
そんな気苦労の多い人生を送った彼であったが、先日、天に召され、この世を去った。
そして、昨晩、その彼が私の枕元に立ったのである。
天に積んだ富で富裕層の仲間入りしたのかと思いきや、ひどく沈んだ顔つきだ。私は驚き、心を痛め、彼にその理由を問うた。
彼は悲痛な声で答えた。
「うう、円で積み立てたばかりに……」