苦い文学

ルーの秘儀

汝、カレーおよびシチューの調理をなすものよ、ルーの投入はもっとも神聖な瞬間だと知れ。

煮え立った鍋にルーを決して入れてはならぬ。なんとなれば、ルーの怒りを招くがゆえに。

まず、火を止めねばならぬ。すると、騒がしくもグツグツせる鍋は、たちまち和らぎ、静かにならん。

こはルーを入れるのにもっともよき兆候なり。されど、もしグツグツ止まざれば、ただちに調理を中止し、その日は断食すべし。

鍋が静かになりしのちは、祈祷を捧げよ。ルーの力を鍋に召喚せんがためなり。

その祈りでは、まず野菜および肉など具材の来歴を語れ。ついで煮込みの頼もしき味方である火と水の精霊に感謝を述べよ。そして、最後にすべてをひとつにしたもうルーの偉大なる力を褒め称えよ。

祈りとともに、ルーを讃える舞踊をなすべきなり。ただし、空腹のはなはだしき場合はその限りにあらず。

さて、これらの聖なる儀式ののち、はじめてルーを鍋にたてまつること許さるるものと知れ。この秘儀なくして、ルーの加護を溶け残りなく受けることなし。

ルーを収む紙箱には、ただ「いったん火を止めてからルーを入れてください」と記されるのみ。

なんぴとも知らざりしその理由について、今、我、ここに明らかにせり。