苦い文学

いつもありがとうございます

はじめて買い物をした店なのに、帰りぎわに「いつもありがとうございます」と言われることほど、私にとってイヤなことはない。

もちろん、私にも、店の人がどうしてそんなことを言うかはわかる。言葉どおり、私がいつも来る常連だから感謝している、という意味ではない。

そうではなく、ただ、私を客の代表に見立ててそう言っているに過ぎないのだ。つまり「あなたのようなお客さまがたがいてこそのこの店です。心より感謝いたします」ということだ。

そして、これは同時に「あなたのようなはじめてのお客さまでも、常連のお客さまのように大切にいたします」と、店が客を大事にすることのアピールともなっている。

だが、それでも私はイヤなのだ。不気味なのだ。恐ろしいのだ。

なぜなら、私とそっくりな人間が、その店にすでに来ている可能性だって否定できないからだ。

私の預かり知らぬところで、私に瓜二つの存在が徘徊している……なんと不気味なことだろうか。

しかも、そいつは私の近くにいるのだ。いや、もしかしたら、そいつは私を探しているのかもしれない。私の行く可能性のある店をひとつひとつ訪問しているのだ。

「いつもありがとうございます」「いつも」「いつも」……。

そいつは、私がそこにいたと言う確かな証拠であるその「いつも」を辿って、いつか私の居場所に姿を現すことだろう。

そして、私を滅ぼし、何食わぬ顔で私として生き始めることだろう。