苦い文学

21万円の行方

かつて、私はあるビルマ人の身元保証人をしていた。入管に収容されていた彼は、やがて仮放免されることになった。彼が用意した30万円の保証金を私が納めた。

仮放免中の人は、仮放免期間延長のために定期的に入管に出頭し、身元保証人の署名の入った申請書を提出する。

最初のうちは、私の署名をもらいにきていた彼だったが、やがて来なくなった。私は彼に電話をかけたが、その番号はすでに使われていなかった。後に、彼を知る人から「どうせまた捕まるなら仮放免など意味がない」といって逃げて、どこかで不法就労している、と聞かされた。

それからある期間が経ち、入管から彼の名の記された通知が届いた。「仮放免を取り消したので保証金の一部金 90,000 円を没収した」と書かれていた。

そこで、いずれ彼から直接連絡があるものと思って待っていたが、何も来なかった。やがて、私は忘れてしまった。

この通知から2年して、再び入管から彼の名が記された通知が届いた。見れば、こんなようなことが書いてある。

「仮放免保証金の還付手続がまだ行われていません、某月某日までに行わないと、会計法令の規定に基づき、国庫に納入されます」

残りの21万円のことだった。

私は彼が日本にいるのか、帰国したのか知らず、連絡先もわからなかった。

還付手続きに必要な「保証金受領証書」は私の手元にはなかった。あるとすれば彼のところだが、確認のしようもなかった。

「保証金受領証書」がない場合、警察に「なくした」といって遺失届を出し、「盗難又は遺失届出証明書」をもらって入管で手続きを進めなくてはならない。

だが、そもそもその紙を私は持っていなかったのだから、「なくした」というのは嘘だ。

わざわざ警察に嘘をつきに行くことはない、と考えた私は行かないことに決めた。忙しく過ごすうち、いつしか期限の日も過ぎ去っていた。

すると、先日、電話がかかってきた。彼からだった。今まで逃亡していたが、もう一度、難民申請をすることにしたというのだ。彼は言った。「保証金を返してください」

私が通知の写真を送り、事情を説明すると、彼は電話を切った。

今ごろ彼は、私が保証金を盗んだと、あちこちで言いふらしていることだろう。なんなら21万円を賭けてもいい。