苦い文学

感謝の回転

あるとき、飲み会で帰れなくなって、友人の家に泊まったことがある。朝になり、さわやかに目覚めた私が、帰り支度をしていると、友人が眠たげな顔つきでこう文句を言ってきた。

「ああ、おかげで一睡もできなかった」

てっきりいびきのことかと思った私が謝ると、彼は「ちがうちがう。一晩中回転されてちゃ、こっちが困るんだよ」

「回転?」

「仰向けのまま、尻を中心にぐるぐる回ってたんだ。気がついてなかったのか? まるで、おかしくなったコンパスの針みたいに。部屋はメチャクチャになるわ、眠れないわで……」

なんのことかわからなかったが、やがてピンときた。

足を向けて寝られない人が多過ぎるせいなのだ。

つまり、横になった私が、一方向に足を伸ばすやいなや、たちまちその方向にいる「足を向けて寝られない人」に足が反発して横にずれる。だが、そのずれた先の方向にも別の「足を向けて寝られない人」がいる。すると、私の足はこれにも反発してさらにずれる。だが、その先にも、その先にも……。

この連続、つまり、全方位にわたって生ずる反発の連続が、眠れる私の回転を生み出したのだ。

日頃から、私が感謝の念を抱いて暮らしている素晴らしい人間であることをよく伝える、とっておきのエピソードだ。