男は主役と血にまつわる夢にうなされて目覚めた。もう昼前だった。身支度を済ませて部屋を出ると、見知らぬ男が待ち構えていた。
「先生、この町の町長でございます。主役をお探しとかと伺いまして、主役候補を公民館に集めてあります。町としても全面協力いたしますので、ぜひおいでください」
男はこれを聞いて思った。「もし、主役がいなかったら、真っ先にこの町長から殺してやろう」
男は町長に連れられて、公民館の大きな会議室に案内された。室内は主役候補でいっぱいだった。男が前に置かれた椅子に座ると、昨日、彼の部屋にやってきた若者が立ち上がった。手には男が投げつけた脚本が握られていた。
「私は監督よりこの脚本を託された助監督として、今回のオーデションの司会を担当させていただきます。私の隣におられるのは、この素晴らしい脚本を書かれた作家の先生です」
昨日の女が立ち上がって、微笑みながらお辞儀をした。
「そして」と助監督が続けた。「その隣におられるのが、この脚本に惚れ込んで、監督が手がけるのならと、出資を申し出てくれた社長です」
中年の男が立ち上がり、町の発展だの、町おこしだの、若者だの、子どもたちだのが散りばめられた演説をぶった。
「では、オーディションを始めましょう」と助監督が宣言した。「主役ばかりでなく、それ以外の役も決めてしまう予定です。ご自分の希望する役のセリフの書いた紙を選んでください」
人々にそれぞれ紙が行き渡ると、オーディションが始まった。
本職の役者など誰もいなかったが、助監督が意外と褒め上手だったので、初めは下手くそだった参加者も段々と乗ってきた。脚本家が冗談をしきりと口にしたので、会議室は活気づき、笑い声でいっぱいになった。誰もが楽しそうだった。
誰ひとり、男がこっそりと会議室を抜け出したのに気がつかなかった。外はもう夜になっていた。必ず主役を探し出して、絶対に血祭りに上げてやる、と憎しみに身を焦がしながら、男は闇の中に姿を消した。