苦い文学

主役(2)

闇が街を覆うころ、探索を切り上げた男は、海辺の安宿に戻り、主役を見つけたら自分がしようと思っていることを考え続けていた。首を絞めて窒息させたり、ナイフでズタズタに切り裂いたり、効き目の遅い猛毒でじっくりいたぶったり……。

宿の周りでは町の人々が続々と集まってきていた。我こそは主役だと、誰もが思っていたのだった。あどけない子どももいれば、驚くほどの老人もいた。みな、宿を見ては、監督がいるのはあの部屋だ、いや、こっちだ、と騒いでいた。

押し寄せる老若男女を見て、宿の主人は驚き、追い返そうとした。だが、群衆は「監督に会わせろ!」と詰め寄った。宿の主人がはねつけると、もう一触即発の状態になった。

そのとき、町長が群衆の中から飛び出てきた。

「明日の朝、私が直々に監督に会いに行き、公民館でオーディションを行なってくれるようお願いします。みなさん、明日、公民館でお会いしましょう!」

人々は立ち去り、再び宿は静けさを取り戻した。

男は相変わらず主役をどのように苦しめ、どのように痛めつけ、どのように切り刻むか、考え続けていた。

そのとき、誰かがドアをノックした。1回、2回、3回、ようやくその音が、男の血塗られた心に響いた。

男がドアを開けると、見知らぬ女が立っていた。女は「私が書いた脚本です! どうか読んでください!」と紙の束を押し付けて、行ってしまった。

男はその脚本を床に投げ捨てて、血の報復の夢想に戻っていった。

再び、誰かがドアをノックした。

狂おしいほどの憎悪に燃えながら男がドアを開けると、今度は若い男が立っていた。「どうか弟子にしてください!」 若者は土下座した。

男は、落ちていた脚本を若者めがけて投げつけ、ドアを閉めた。