苦い文学

主役(1)

男は自分が脇役の人生を送ってきたことに気がついていた。そして、自分をそんな境遇に追いやった主役を、いつしか憎悪するようになった。

ある夜、男は鋭い殺意だけを抱いて、街に出た。主役を殺すつもりなのだ。だが、その主役がどこにいるのか、誰なのか、見当もつかなかった。男は主役を探す旅を始めた。影から影へと渡り歩き、やがて、海辺の寂れた町にたどり着いた。

男は薄暗がりに佇み、通りや店やレストランの人々をじっくり見ては、かぶりを振って立ち去った。町の人々は見知らぬ男が町のあちこちでガッカリしているのを見て、好奇心を覚えた。

そこで、ある住民が我慢できずに話しかけた。ちょうど男が「面倒くせえ、この町の連中を皆殺しにしてやろうか」と考え始めていたときだった。

「一体誰を探しているのです」

男は憎悪にギラついた目つきで答えた。

「主役だ」

この返答はすぐさま町中に知れ渡った。「旅芝居の座長に違いない」「いや、有名なドラマ・プロデューサーに似ている」などと町の人々は騒ぎ立てた。だが、物知りの老人が「世界のクロサワの目と同じぐらいの殺気だ」と断言してからは、映画監督だということに決まった。