私たち天狗は、人跡まれな山の奥深いところに暮らすものですが、そのせいか皆さんの間には、私たちに関する間違った知識が流布しているように見受けられます。
その大いなるものを挙げますと、私たちの「鼻」についての誤解です。皆さんは、天狗と聞きますと、いわゆる「長い鼻」を想起されるのではないかと思いますが、これは実は鼻ではないのです。
ちょっとご覧ください(と、Zoom で画面共有)。皆さんが「鼻」と呼んでいるものはこれですが、その付け根にご注目ください。これです。小さな盛り上がりがあるでしょう。これが本当の鼻なのです。鼻孔もちゃんとあります。
それでは、皆さんが「鼻」と呼んでいる部分は何なのでしょうか。これは実はメロン体という脂肪組織なのです。
メロン体と言いますと、イルカの頭部にある感覚器官で、音波によってエコローケーションを行うものです。私たちの「鼻」もこれと同じ機能を果たしておりまして、山奥の暗がりを飛び回る時などに、もっとも有用なのであります。
なお、このメロン体、イルカなどの額にあることからも想像できますように、実際は額の下部が発達したものだと、近年、判明いたしました。名実ともに鼻ではないということがご理解いただけたでしょうか。
それともうひとつ、皆さんの誤解を解いておきたいのですが、私たち天狗のこのメロン体は、年を重ね、経験を積むごとに長く伸びてまいります。つまり、長く立派なメロン体を所持しているということは、尊敬に値する人格者であることの証なのであります。
そのようなわけで、鼻高々なる人物を評するに「天狗になった」などと皆さんが言われるのは、私たちにとって大変心外であり、悔しさのあまり涙するものもいるほどなのです。
なにしろ私たちは「伸びるほど、こうべを垂れる天狗かな」と諺に言うほどなのです……、ちょうど法螺貝が鳴りましたので、このあたりでお話は終わりにさせていただきます。