「巻を措く能わず」というのは良い本について言われるが、その逆もまた良い本だといえる。読むのをやめて、早く自分の人生を生きたくなるような本だ。
私にとっては『人生に正解はない』(笘篠叡士著、幻覚社刊)がまさにそれだった。「人生には正解などないのだから、思うがままに生きよ」という著者の主張に心躍らせた私は、本を途中で放り出して新たな生き方へと歩み出したのだった。
私は長年勤めた会社を辞め、家も引き払った。残ったのは、最低限の所有物と『人生に正解はない』だけ。貯金をすべておろすと、長い旅に出た。冒険が始まったのだ。
そして、挫折と失敗の年月の末、私は無一文になって、もといた町へと戻ってきた。かつて勤めていた会社に行ったが、私を知るものは誰もおらず、中にも入れてもらえなかった。他で仕事を探したが、私のような一度足を踏み外した人間を雇ってくれるところはどこにもなかった。
私は失望し、こんなはずではなかったのに、と悔やんだ。
カバンの中から『人生に正解はない』を取り出した。この本が私の人生を変えてしまったのだ。これを古本屋に売ればおにぎりでも買えるかもしれない。
せめてお終いまで目を通そうと思ってパラパラとめくると、最後のページにこう書いてあった。
「人生には正解はない。だが不正解はある」
古本屋に持っていったら、値がつかなかった。