苦い文学

海の詐欺

海の者だという人から電話があった。私に聞きたいことがあるというのだ。

「某月某日に、竜宮城に行って饗応を受けましたか?」

「いいえ」

「こちらの記録によると、その日、あなたが竜宮城にやってきて、三日三晩のもてなしののち、金銀財宝と玉手箱を手にして帰ったとあるのですが」

「その日は出社していたので。会社に問い合わせてもらえばわかりますが」

「いや、これで結構です。あなたが竜宮城に来ていないということがわかれば、それで十分です」

「いったいどうしたんです。私にも事情を教えて欲しいものですが」

「何者かが、あなたの名前を騙って竜宮城に行き、ご馳走と財宝と玉手箱を詐取した疑いがあるのです」

「気味が悪いですね。誰がそんなことをしたというのです」

「亀が首謀者で、蛸をそそのかして、あなたの偽物に仕立てあげたという線が濃厚です」

「蛸が私に!」

「ええ、亀はあなたに成り済ました蛸を恩人だと偽って竜宮城に連れて行き、竜宮城の財産を不当に奪ったのです」

「そうですか。事情はわかりました。では」

「ちょっと待ってください。実は困ったことがありまして」

「えっ、なんですか」

「捜査の行き違いから、あなたに対して逮捕状が出されているのです。あなたの逮捕を防ぐため手を尽くしたのですが、どうしても法律上、保証金を30万円、至急納付しなければ逮捕だというのです。あくまでも形式的なもので、お金はすぐに返還されるのですが……」