迫り来る死から逃れる術もなく、ただ私にできることといえば、残れる気力を振り絞ってこの手記を書くことだけ。自分の身に何が起きたのか、書き残しておけるのがせめてもの救いだ。
私はとある田舎町で教師をしている。出勤しようと家を出て、数分も歩かぬうちに、前から通行人がやってくるのに気がついた。
道は狭かった。私は右に避けようとした。すると、相手も右に避けた。そして、今度は左に避けようとすると、相手も左。私たちは何度も左右に譲り合ったあげく、ようやくすれ違うことができたのだった。
ホッとしたのも束の間、私はすぐまた別の通行人がやってきたのに気がついた。普段はこんなに人通りなどないのに、と不審に思いつつ、私は今度は左に避けようとした。すると、相手も左に避けるではないか。そして、ああ、すれ違うまでに、私たちは何度左右に揺れたことだろうか。
だが、通行人は二人だけではなかった。次から次へとやってくるのだ。そして、同じように困難なすれ違いを何度も経験したのち、私は自分が異常な状況に巻き込まれたと悟った。
しかも、私の前に現れる通行人は次第に、不気味な雰囲気を帯びていったのだ。その顔は人間らしさを失い、まるで紙の仮面のように薄っぺらだった。
家を出てからずいぶん経ったように思えたが、実際にはまだ10メートルも進んでいないのだ。私は混乱し、いったん家に帰ろうと向きを変えた。
ああ! 振り返った時の私の絶望を理解してほしい。家に帰ろうとする私の前に、今度は反対側からやってくる通行人が立ち塞がったのだ!