苦い文学

焼き鳥

私はこれまで愛国心を目の敵にしていたが、なぜだか、急に国を愛する心が湧いてきたのだ。そんなわけで、私は先日、都内69店舗展開中の「酒保しらなみ」に行った。今、話題の愛国居酒屋だ。

私は友人とどっかと席に座り、とりあえずのビールを頼むと、ゆっくりじっくり、つまみの選定にかかった。

名物は、五つの素材の味のハーモニー、八紘シチウだとか。「これを頼まなきゃ、非国民だゾ!、のキャッチフレーズでお馴染み!」とメニューには書いてあるが、いったいCMでもやっているのだろうか。私は友人に聞く。

「この八紘シチウってのにするか」

「まずそう」

「じゃあ、やめるか」と再びメニューを見る。すると友人が聞いてきた。「こっちのはどう? この『鳥かえせ』ってのは」

「『鳥かえせ』? ちょっとメニュー見せて。『店主が拉致被害者の帰還を願いながら丁寧に一本一本焼き上げた当店の特製焼き鳥、鳥かえせ』か。いいんじゃない。頼もう」

私たちは店員を呼んだ。「はい、お待たせしやした」と駆けつけてくる。

「えっとね、『鳥かえせ』、二人前お願い」

「あっ、すいません。終わっちゃってまして、普通の焼き鳥ならできるんですが」

「えっ、焼き鳥ができるんなら、『鳥かえせ』だってできるんじゃない、同じ鶏肉なんだから」

「ちょっと、店長に聞いてみます」と店員、調理場の方に駆け込んで、何やら言葉を交わしているようす。そして、戻ってくるとこんなことを言った。

「すいません。鶏肉はあるんですが、店長の拉致被害者の帰還を願う気持ちが切れちゃってて、ちょっと……」

私たちは、もっと愛国的な居酒屋を探すために店を出た。