学校での暴力が問題になっているけど、昔はこんなことは問題にはならなかったな、と平助は思った。
平助が子どものころは、教師は怒り狂って殴るものと決まっていた。そのための教員免許だったのだ。
平助もよく殴られた。小学生の頃もだが、中学生に上がったらもっと殴られるようになった。
かといって、平助が反抗的であったとか、不良であったというわけではなかった。むしろ、普通の朗らかな少年であった。だが、もしかしたら朗らかすぎたのかもしれない。それが教師たちの気に触ったのだ。なんにせよ、平助が教師のビンタから逃れる術はなかったようだ。
平助をよく殴ったのは白石という体育教師だった。そして教師だけでなく、先輩たちにもよく殴られた。とくに黒木という一学年上の先輩は、殴るだけでなく、蹴りも入れてきた。
おかげで平助は中学校に行くのがすっかりいやになってしまった。朝になると体が動かなかった。だが、一日か二日も休めば、またぞろ登校しだした。そしてまた、白石と黒木にさんざん殴られるのだった。
だが、平助がその後、大人になって、多少物事がわかってくると、この経験を別の角度からとらえることができるようになった。
中学のことをありがたく感じるようになったのだ。
中学時代を思い出すたびに彼は「ああ、白石と黒木だけでよかったな」と感謝する。そしてこんなふうにつぶやくのだ。
「もし、青山とか、赤坂とか、緑川とか、黄谷とかがいたとしたら、きっと中学生の俺の体は持たなかったろうな……」