苦い文学

安らかに眠れ

私のおじさんは生涯仕事につかなかった人で、いつもぶらぶらしているか、お酒を飲んでいるかのどちらかだった。

みんなおじさんのことを馬鹿にしていたが、こどもの頃の私にとってはそうではなかった。いつも面白いことや奇妙なことを言うので、大好きだったのだ。

あるとき、親戚のお葬式があった。私はおじさんと一緒に座っていたのだが、弔問客のひとりが棺の前で「あっちですきなお酒でも飲んでください」と言った時、おじさんがこっそりと苦々しげに舌打ちした。

気になった私はどうしてそんなことをしたのかと、尋ねた。すると、おじさんは「お葬式ではそんなことは言ってはいけないんだ。なぜなら、葬式にはあの世の住人たちがひそかにやってきて、人々の様子を監視し、その会話に耳を傾けているのだから」と言うのだった。

「でもなんで言ってはいけないの」と私。

「お葬式で『ゆっくり休んでください』とか『安らかに眠れ』とか言う人がいるけど、それは絶対にダメなんだ。あの世の住人ってのは、そもそもあまのじゃくなんだ。だからそんなことを言うと、あの世の住人たちは『ということは、この死者はあの世でもっとも忙しい部門に配属だな!』と勝手に決めちゃうんだ! これじゃあ、せっかくのあの世で休むことなんてとてもとても!」

「じゃあ、すきなお酒でも飲んでください、というのは?」

「これなんかもっとダメだ。『すきなお酒でも飲んでください』なんて、あの世の住人が聞いたら、『じゃあ、酒は取り上げてやれ』の一択だ! 死んでる間は一滴だって酒にありつけない」

「じゃあ、なんて言えばいいの」

「何にも言わないでいい、何にも。あの世の住人にヒントはいっさい与えるな!」

それから2年ほどして、おじさんも亡くなった。

葬式で、お棺の前に立った私は「おじさんがあの世に行って、こっちではみんなせいせいしてますよ」と、あの世の住人に聞こえるようにはっきりと言ってやった。