私が身元保証していたあるビルマ難民が、日本での認定を諦めて、やむなく帰国することになった。
だが、彼にはその帰国費用がなかった。そこで私に電話してきて言った。
「帰国費用がないので30万円貸してください。私が帰国したら、入管にある保証金30万が返還されるので、それを受け取ってください」
彼はもともと入管に収容されていた人で、私が彼の身元保証人をして外に出ることができたのである。保証金30万とは、その時に入管に収めた保証金のことで、これは仮放免許可を得た者が正規の滞在資格を得たり、あるいは帰国した時に、返還されることになっている。
入管の保証金を受け取るのは、身元保証人がする手続きなので、彼の言うこともまったく無理な話ではなかった。私はいろいろ考えた末、彼にお金を貸すことにした。それまでの彼との付き合いから、彼がいい加減なことをする人ではないと知っていたのである。
だが、それでもわたしは心配だった。もし彼が帰国する前にたとえば法を犯して入管に収容されたりすると、ペナルティとして保証金の一部が没収されることもある。
それどころか、ふと悪い気を起こして、彼が30万円を遊びに使ってしまうということだってありうる。保証金の返還は彼の帰国が前提となっているのだから、もし彼が帰国しないとなると、なかなか厄介なことになる。
そんなふうに気が気ではなかったが、ある日、ビルマから彼のメッセージが届いた。帰国したのだ。それから、数週間して、入管から連絡が入り、私はぶじ30万円を受け取った。
帰国する前に、彼は私に会いたがった。それで、駅で待ち合わせした。彼はやってくると、私に感謝を述べ、こんなことを言った。
「私が帰国することは誰にも言わないでください」
こういう秘密主義はビルマの人々の間ではしばしば見られる。なので、私は別に気にしなかった。だが、彼が日本を去った後、その意味が明らかになった。
彼は別のビルマ人からも金を貸りていたのであった。