苦い文学

黒船の眠り(歴史文学)

携帯電話というものが生み出され、人々の間に普及してから、教師と学生の争いがはじまった。

そして、かくいう私もこの戦争に巻き込まれた教員の一人であった。

私の素晴らしい日本語教育は、携帯を片手にした留学生たちによって絶えず脅かされた。

私に与えられた武器はといえば注意のみ。だが、多勢に無勢、注意などなんの効き目もなかった。留学生一人を注意して携帯を見るのをやめさせても、別の留学生を注意している間に、その学生が再び携帯を見出す始末なのだ。

そこで、私は思い切った戦術に打って出た。携帯を見ている留学生を急襲し、携帯を取り上げ、容赦なくゴミ箱に捨てていったのだ。「いじるなら捨ててしまえスマートフォン」作戦だ。

だが、私はやがて本能寺の変が心配になった。そこで作戦変更だ。「いじるなら取り上げましょうスマートフォン」、つまり、秀吉よろしく携帯狩りを始めたというわけだ。

私は、授業の開始と同時に、学生全員の携帯を集めて、授業の終わるまで袋に厳封したのだった。しかし、裕福な留学生たちが、2個目3個目の携帯を隠し持っていることには思いも及ばなかった……。

かくなる上はと、私は最後の作戦にかけた。その名も「いじるなら止むまで待とうスマートフォン」作戦。

私は携帯に夢中になっている留学生たちの前で待ち続けた。注意もせずに、じっと辛抱強く待ち続けた。すると、神君家康のご威光のありがたさよ、さしも手ごわき学生たちも次々と携帯を見るのをやめていったのだ。私は、最後の一人が携帯をカバンにしまったのを見届けると、天下統一を宣言した。

だが、しばらく授業を続けているうちに私は気がついた。なんと留学生たち全員、泰平の眠りをむさぼっているではないか。

留学生といえば、日本を目覚めさせるために来航してきた黒船にほかならない。なのに、その黒船自身が先に寝てしまったとしたら、いったい誰にこの黒船を起こせようか?