苦い文学

かじりたい人びと

「僕は不思議に思っていたのです」と青年は語った。

「昨年から今年にかけて2回オリンピックが開催されましたが、大会の前にアスリートたちが意気込みを語る場面がありますよね。もちろん、誰もがメダル、とくに金メダルを目指して競技に挑むのですが、少なからぬアスリートが金メダルのことを『一番いい色のメダル』と婉曲的に語るのです。どうしてはっきり言わないのだろう、って。不思議に思いませんか?」

「謙遜で言ってるのかもしれませんね」と私。

「ええ、僕もはじめはそう思いました。でも、『一番いい色のメダル』とは、もう金メダル以外ないのですから、謙遜とはいえないでしょう。むしろ、そんなふうに言い換えること自体、いやらしいように思えたのです」

「そうでしょうか」

「そこに、名古屋市長のあの『金メダルかじり』事件です。あれですべてがはっきりしました」

「といいますと」

「ちょうど性器を『アソコ』とか、性行為を『エッチ』とかいうのと同じなのです。つまり、ある種の人びとにとっては『金メダル』とは実に卑猥な言葉であり、だからこそ『一番いい色のメダル』などと言い換えざるをえないのです」

「なるほど、とすると、河村先生がセクハラだと批判されたのも……」

「まさにそうです、彼は若い女性の大切な『アレ』をパクリと口に含んだのですから。しかも公衆の面前で!」

「ははあ、面白い解釈ですね……。で、今日はどう言ったご用件で私のところに?」

「実は、マーケティングの結果、メダルをかじりたがっている人が意外に多いとわかりまして、いろいろな著名アスリートのメダルをかじれるバーを名古屋市内に開店しようかと考えています。それで、ぜひ投資していただければと……いえ、風俗店ではないのでして……」