苦い文学

Posthumous

彼は自分の書いたものを、とある出版助成に応募した。

やがてその結果が出て、助成の対象となることがわかった。それから出版のプロセスが具体的に始まることとなった。

彼は念入りに最終原稿を仕上げ、出版社に提出した。しばらくすると、出版社から初校のゲラが送られてきた。

そのころ彼は仕事を失い、ひとり家に逼塞するようになった。社会的には死んでいるも同然なのだった。

することといえば、ゲラの校正ぐらいだった。だが、これはかなり大変な作業だった。彼はなんとか初校の校正を終え、出版社に送った。

しばらくすると再校のゲラが送られてきた。彼はその校正も終えて、出版社に送り返した。すると、再々校が送られてきた。

これが最後の校正だ。彼はできる限り間違いを探し、赤字で修正して送り返した。

ゲラは印刷に付され、やがて本ができ上がった。出版社はその現物を彼のところに送ってきた。いずれいくつかの本屋に並ぶとのことだった。

刊行までの期間を振り返ると、彼はまるで棺桶の中で必死に校正していたかのようだった。これも一種の死後出版だといえよう。