我々の社会における顕著な特徴は、社会的地位の高い男性ほどハゲが多いという傾向である。保育園の園児の集団と比べてみれば、これはいっそうはっきりしよう。
先月、サイアミーズ・ネイチャー誌にパトリック・コーガン博士が発表した論文は、人類学的見地からこの特異な傾向を論じたものであり、きわめて示唆に富む考察が展開されている。以下はその要約である。
原始時代の狩猟採集生活においては、男女の明確な分業が存在した。男は狩猟に出かけ、女は採集を行っていたのだった。
狩猟には集団的な協力関係が不可欠であり、この狩猟を通じて、我々の社会生活の基礎をなす重要な特徴、すなわち、コミュニケーション能力と組織構成力が育まれた。
コミュニケーション能力とは、言語や手振りで相互の行動を伝達しあう能力である。組織構成力は、目的達成のために役割を分担する能力であるが、とくにリーダーの存在が重要なものとなる。
つまり、狩猟の成否を握るのはリーダーの指示ということになるのだが、この指示はどのように伝達されるべきものであろうか。
もちろん言語は重要である。しかし、狩りの現場においては言語は、獲物がその音声に気がつき逃げてしまうという点で役に立たないのである。
では、身振り手振りはどうだろうか。これはある程度は有効だが、距離が離れれば離れるほど視認性が低下するという弱点がある。
コーガン博士はここで大胆な説を提唱する。すなわち、原始時代の狩猟においては、ハゲ頭の光の反射による信号が重要な役割をはたしていた、というのである。
リーダーが太陽に反射するハゲ頭を手で覆ったり露出したりすることによって、あらかじめ決められた光の信号を遠方の男たちに送信し、狩猟を成功に導いていたに違いない……こう博士は推論するのである。
「したがって、ハゲたリーダーがいる集団ほど生き残る可能性が高かった」と博士は結論づける。「現代のリーダーにも同様の特徴が見られるのも、その名残りにほかならない」
最近ますます毛が薄くなってきている私であるが、博士の研究は、まさに私の頭にさした一条の光といえよう。