苦い文学

町中華にて

近所の町中華で、ひとりラーメンを啜っていると、二人の太った男が入店してきた。

二人は奥の方のテーブル席に座ると、やってきた店主に驚くべき量の料理を注文しはじめた。

私がのろのろと食べている間に、料理が続々とテーブルに到着した。それを二人の巨漢は次から次へと平らげていくのである。

食が細く、痩せぎみな私は、常軌を逸した健啖ぶりに呆気にとられるばかりであったが、見ているうちに、おかしなことに気がついた。

二人で食べているように見えたが、実際にたくさん食べているのは一人のほうだけなのだった。もう一人のほうは一口か二口食べるだけで残りをすべて相手に押し付けているようなのだ。

また、二人の様子も変わっていた。あまり食べないほうは高価そうなスーツを着た中年男だったが、食べさせられているほうは、汚れたTシャツなのだった。年はもっと上のようで、顔つきは日本人らしくは見えなかった。

中年男はさらに大量の追加注文をした。そして料理がやってくると、彼が一口食べたものを、Tシャツの巨漢がどんどん体内に流し込んでいくのだった。

すでに、Tシャツのほうの顔には苦悶の表情が浮かんでいた。しかし、中年男はそれに構わず料理を彼の前に置き、「もっともっと」と促すのだった。まるで重荷を積んだロバを鞭でひっぱたいているように思えた。

やがて、裕福そうな中年男は満足したのか、Tシャツが最後の皿を悶絶しながら平らげると立ち上がった。そして、貸し切って忘年会でもしたかのような大金を支払った(クレジット・カードは使えないのだ)。

二人が去ると(Tシャツは過食のため目が回ったのか、ふらつきながら出ていった)、私は店主にこの異様な客について尋ねた。すると彼は答えた。

「社長(あの中年男のことだ)はいま健康のためにダイエット中なので、自分が食べたくなると他人に代わりに食べてもらうようにしているのです。一緒に来た人は、そのために雇った外国人ですよ。以前は痩せた人だったのですがね……」