人間らしい付き合いというもののない私には、年賀状といえば、毎年、なぜか嵐から届くきりだったが、最近はそれも来なくなった。
なので今年はゼロかと思いきや、珍しく1枚だけ私宛に来ていた。学生時代の頃の友人だ。
彼と過ごした青春の日々が不意に思い出された。もっとも、それらの日々はとても無残なものだったので、私はここ数十年思い返すこともなかった。
我々は苦しく惨めだった。だが、その悲惨の中から、あるとき彼は、ひとつの夢を掴みとったのだった。それは歴史的な瞬間だった。
「俺はこの世界を破壊する」と彼は言った。「憎しみを播種し、恐怖と侮蔑で人々を分断させるのだ。人権などというものを真っ向から否定し、弱者どもを狂わせ、無限の闘争に駆り立てるのだ。あらゆる人間性を、価値を、技術を、知性を、知恵を蔑ろにして、この世界を混乱に陥れる。そうだ、戦争だ! 戦火をあらゆる番地に燃え立たせるのだ。この世界はひとつの巨大な地獄となるだろう……」
私は我に返り、彼からの年賀状を眺めた。ありきたりの正月の文句と彼の名前が書かれ、その下に「自民党員」とあった。
どうやら、着実に夢を実現させているようで、他人事ながらうれしかった。