苦い文学

災害

南海のどこかで怪獣が現れて、日本に向って北上をはじめた。小笠原諸島を通過し、八丈島に接近したかと思うと、あれよあれよという間に大島沖までやってきた。

怪獣はそこで少し東に針路を変えた。急きょ設けられた災害対策本部は慌てふためいた。東京湾に侵入しようというのだ。上陸地点は川崎から浦安のあいだのどこかにちがいなかった。

関東全域に緊急事態宣言が発令された。上陸予想地点には自衛隊の部隊が派遣された。

東京湾沿岸の住民たちは争って東北地方や関西地方に逃げだしたが、政府は混乱を避けるため交通を遮断した。食料品と生活必需品が不足し、奪い合いが起きた。パニックと略奪と放火が徐々に広がっていった。

そしてついに怪獣が都民の前に姿を現した。その巨大な生き物は海から東京を睥睨すると、波を起こしながら岸に近づいていった。

その時だった。韓国の議員が竹島(独島)に上陸したとのニュースが政府に伝えられた。

首相は直ちに会見を行い、極めて遺憾との意を表明した。政府は、駐日韓国大使館に抗議の声明を送った。また与党系の議員団は「到底受け入れることのできない暴挙」だと強く非難した。また、右翼系の政治団体はこぞって抗議運動を展開した。

このように政府が竹島問題に全力で取り組んでいる間、怪獣は東京湾沿岸の諸都市を破壊し、海に帰っていった。