遠い未来の死にかけた地球、新型コロナウイルスが猖獗を極めるアルメリーの丘陵地帯に、魔法使いが暮らしていた。魔法使いには、緑と藍の二人の弟子がいた。
緑はなにかにつけ飲み込みが早く、一を聞けば十どころか百を知る頭のよさだった。魔法使いは「地頭のよい男だ」と思った。
もう一方の弟子である藍は、真面目で勤勉だったが、頭の鈍さと不器用さがすべてを台無しにしていた。「地頭の悪い男だ」と魔法使いは思った。
あるとき、魔法使いはフェーダーズ・ワフトで起きた事件のため、しばらくの間、旅に出なくてはならなくなった。彼は二人の弟子を呼び、留守の間の諸注意を与えた。さらに、新型コロナウィルスの正体を明らかにすべく研究を進めよと命じた。そして、魔法使いはマスクの束を持って出発した。
長く困難な旅を終え、魔法使いは帰還した。彼はさっそく二人の弟子たちを呼び寄せ、尋ねた。
「お前たちは新型コロナウィルスの正体を明らかにすることができたかね」
地頭の良い緑は自信満々にうなずいたが、地頭の悪い藍は悲しそうに首を振った。
「では、緑よ、お前の答えを聞かせてくれ」
「新型コロナウイルスの正体は、嘘です。魔法使いビル率いる秘密結社が、人類を支配し、家畜化するために、恐怖をあおっているのです」
魔法使いは旅の疲れがどっと出たような気がしたが、それを表に出さず、もうひとりの弟子のほうを向いた。
「藍よ、お前が答える番だ」
藍は、申し訳なさそうに答えた。
「残念ながら、新型コロナウイルスの正体は明らかにできませんでした。ですが、手に入るかぎりのデータを収集し、実験と治験を繰り返して、かなり効果の高いワクチンを開発しました」
魔法使いは二人を去らせ、書斎にこもると、疲れた顔を擦りながら「地道にしく地頭はなし、だ」とつぶやいた。