苦い文学

入管の中の死者

死者がまるで生きているかのように街を歩き、人々を脅かした。警察はその死者を逮捕しようとしたが、法律は生きている人のためのものだった。

そこである賢い人が、死者を呼び止めて言った。「在留カードを提示しなさい」

死者はそんなものは持っていなかった。「なんだ、不法滞在外国人か」と、人々は安心した。そして、死者を捕まえて、海辺の入国管理局に連れて行った。

入管は、この死者がいつ入国したのかも、どんなビザを持っていたのかも、そしてどの国に強制送還したらいいかもわからなかった。だが、日本人ではないことは確かなようだった。なので、収容所に放り込んだ。

死者が収容されたとの噂は、たちまち収容所中に広まった。被収容者たちは憤慨し、恐れた。そして、新入りが来るや、死者ではないかと疑ってかかるのだった。だが、当の死者は、意外に生き生きとしていたので、誰にも気づかれなかった。

死者はものを食べなかった。食事に手を付けない日々が何日も経ったとき、まわりの被収容者たちが「俺たちも食べないぞ!」と騒ぎだした。死者が入管への抗議のハンストをしていると勘違いしたのだった。

ハンストは収容所中に広がった。慌てた入管職員たちは直ちに原因をつきとめ、死者を独房に閉じこめた。

死者はついに自分の墓に入れたと喜んだ。