私たちは認知症について議論をしていた。
「認知症というのは、死にゆく準備にはいったということなんですよ。人間は、生まれたときは純粋な童心というものを持っていますが、大人になるにつれてこれを失います。ですが、死が近づくとその童心を再び取り返す。誕生と死の間に見いだされるこのシンメトリカルな構図は、まさに神の摂理ですね」
もう一人が言った。
「いや、認知症というのは死とはまったく関係のない病気です。認知症の人すべてが高齢者というわけではないですし、認知症でなくても老衰で死ぬ人はたくさんいます。あなたが認知症をそんなふうに妙に美化して捉えているとしたら、とんでもない誤解ですよ」
別の一人がここで口を挟んだ。
「お二人の意見はもっともですが、介護の現場にいる者から言わせてもらえば……」
我々の議論はつきなかったが、結論としては「認知症はニュータイプ」ということに落ち着いた。
もうみんな認知症になるのが待ち遠しい様子だ……