苦い文学

地下牢

その昔、都に、山の民が予告なしに攻め入ってきた。この不意打ちに、都を防衛する軍はたちまち敗走した。勢いづいた山の民は城門を破壊し、あちこちに火を放ちながら進軍した。王は将軍たちに反撃を命じたが、死を恐れぬ山の民にたちまちのうちに蹴散らされてしまった。  

山の民が王宮に迫り、吹き鳴らす角笛の音が間近に聞こえたとき、王の心に、夢の中のお告げが蘇った。それは、都が危機に陥ったとき、王宮の地下牢に行くようにというものであった。王は、その地下牢がどこにあるか尋ねようと廷臣たちを呼び集めたが、いつまでたっても誰も来なかった。廷臣たちは我先にと逃げ出していたのである。王自身も諦めて玉座から立ち上がったとき、一人の見知らぬ老人が立っているのに気がついた。

「地下牢に余を連れて行くのだ」

老人は王の言葉を聞くや、玉座の裏に回り込み、持っていた杖で床を三回叩いた。すると、階段が現れた。王がその階段を下っていくと、地下牢があった。王はそこに閉じこめられている人物を見て驚いた。というのも、それはその老人その人だったから。王が牢を開くと、老人はしっかりとした足取りで外に出て、「王よ、私に許しを与えてください」と言った。

王が許しを与えると、老人は王宮のてっぺんに飛び上り、杖を振り上げた。すると、山の民たちはたちまち猿となり、猿の言葉を叫びながら四方に散っていった。

王は、危機が去ると、直ちに二つのことをしたといわれる。ひとつはこの老人に金銀財宝でもって報いたことである。

王がしたもうひとつのこととは、逃げ出した廷臣たちを捕まえて、あの地下牢に全員放り込むことであった。そして、この時以来、都はイキンと呼ばれるようになった。それは「投げ入れる」という意味である。