遠い未来、死にかけた地球で、魔法使いが暮らしていた。赤、青、黄の三人の弟子がおり、魔法使いのもとで学ぶこと久しかった。そのため、少年の頃に魔法使いのもとにやってきた弟子たちは、今やいずれも妻子を持つ身となっていた。どの弟子も、まじめに修行に打ち込んでいたが、魔法使いの見るところ、モノになりそうなのは赤い弟子だけだった。
赤い弟子は、頭脳明晰なだけでなく、ハンサムだったので、近くの村の娘と良い仲になった。ある日、彼は妻に「薬草を採りに長い旅に出る」と告げ、さらに青と黄の弟子に口裏を合わせるように頼むと、村娘と二人で熱海の温泉に行ってしまった。
魔法使いが、この不倫旅行について知らされたのは、赤い弟子が帰ってきたあとだった。魔法使いは三人の弟子を集めた。その顔には静かな怒りが浮かんでいた。彼はまず青い弟子に尋ねた。
「青い弟子よ、お前は赤い弟子が熱海に行っている間、何をしていたのだ」
「師よ、私は、不倫旅行に行けない悔しさをバネに、魔法の研究に打ち込み、ついに失われた秘法をつきとめました。これにより魔法科学は大いに発展することでしょう」
魔法使いは片方の眉を上げ、今度は黄色い弟子に尋ねた。
「黄色い弟子よ、お前は赤い弟子が熱海に行っている間、何をしていたのだ」
「師よ、私は、不倫旅行に行けない切なさをバネに、伝説の魔術師リアルトの伝記を完成させました。これで魔法史が大きく書き替えられることでしょう」
魔法使いはもう片方の眉を上げ、最後に赤い弟子に命じた。
「赤い弟子よ、お前が熱海で村の娘としたことをつぶさに報告するのだ」
赤い弟子が語り終えたとき、魔法使いは、青い弟子と黄色い弟子の瞳に、新たな研究意欲がメラメラと燃え盛っているのを見いだした。
魔法使いは弟子たちを去らせると、書斎に座り、太古から伝わる格言を思わずつぶやいた。
「げにげに不倫は文化かな」