無職にもかかわらず、果敢にも食べ続けた人が私たちの先輩にいた。
ストイックにタダ飯を食らうその姿は、まるで「働かざる者食うべからず」という記録に挑むアスリートのようであった。
その大胆不敵な食べっぷりを見てある唯心論者が先輩をこう批判したことがあった。
「こんな穀潰しに食べさせる金があるなら、猫を救ってほしい」
というのも、この人は愛猫家で何匹も保護猫を飼っていたのだ。彼の言葉を聞くや先輩、そのお宅を訪問した。主人は不在であったが、そのまま上がると、片手で猫どもをすくいとった。そして、庭先で丸焼きにして食べてしまった(ご馳走に招待されたと思ったのだ)。
あるとき私たちのもとに先輩からこんな手紙が送られてきた。
「働かざる者こそ食うべきであるとの信念のもと、世の通念に逆らい、不惜身命の思いで食べつづけてまいりましたが、この度をもちまして引退いたします」
私たちは「ついに先輩も就職か」と仰天した。ある者は新たな門出を喜び、ある者は裏切りだと憤慨した。しかし、引退の理由についてはっきりとは分からなかった。
しばらくしてその真相が明かされた。
後進の育成にあたられるということであった。