フダーウィー(Fdaoui)というのは、チュニジアの語り部のことで、私がこのフダーウィーにどんなふうにして出会ったかについて書こうと思う。
だが、その前に、チュニジアの言語と文化について簡単に述べておこう。
アラビア語には大きく分けて2種類のものがある。1つは、コーランの言語の特徴を受け継ぐ文語アラビア語だ。この言語はイスラームの宗教・政治などの公的な場面で用いられる言語であり、多くのイスラーム諸国で公用語とされている。
もう1つは、口語アラビア語、すなわち、日常生活で用いられるアラビア語だ。現代アラビア語方言ともいわれるこの言語は、文語アラビア語とは異なり、公的な場面で用いるものではないとされる。そのため、文語アラビア語に比べて価値の低いものと考える人もいる。しかし、文語アラビア語が学校で学ぶ言語であるのに対し、この口語アラビア語は自然と身につける「母語」だ。だから、その方言が話される地域の言語生活や文化を知る上では重要な価値を持つ。
現代アラビア語方言は、中央アジアからアフリカまで広い地域で話されており、遠く離れた地域では互いに理解することができないほど異なっている。チュニジアの方言は、リビア、アルジェリア、モロッコなどの北アフリカ諸地域の方言とともにマグレブ方言に分類される。チュニジア内部にも様々な方言があるが、チュニス方言は首都チュニスの名がついていることからも分かるように、この国を代表する方言で、チュニジア方言といえばふつう、チュニス方言を指す。
(つづく)
