
2月21日から3月2日にかけて、チュニジアに行ってきた。現地を出たのが3月1日だから、9日間ほど滞在したことになる。
チュニジア行きは、12月に計画したもので、当然ながら、コロナウィルスのことなど頭になかった。
コロナが広がるにつれ、行くべきかどうかずいぶん迷った。自分がすでに感染していて、チュニジアで発症してしまったり、友人たちに移してしまったりしたらどうしようとか、あるいは、フランスでのアジア人に対する様々ないやがらせが報道されていたから、フランス語圏でもあるチュニジアでそんな目に会ったらどうしようとか。
そうした可能性のうちもっとも悲しいことだと思われたのは、親しい友人たちが、コロナを恐れるあまり、掌返しで私を拒絶するという事態だった。ふと楠勝平の漫画「おせん」が思い出された。
貧しい町娘のおせんは、裕福な恋人と戯れている間に、高価な壺をうっかり割ってしまう。するとおせんはその瞬間、顔色を変えて恋人が割ったと責め出すのである。恋人はこれにショックを受け、そして二人の仲も壺のように壊れてしまうというわけだ。
できればそんな物悲しい経験をしたくはない、と思いつつ訪れたチュニジアであったが、実際は滞在期間中に出会ったどの人も暖かく迎えてくれた。ホテルやレストラン、電車でも不愉快な思いをすることはなかった。コロナの壺は割られていなかったのだ。私と会ったり、そばにいたりするのを不安に感じた人もいただろうが、それをあからさまにする人はほとんどいなかった。
これは、本当にありがたいことだった。
それどころか、街を歩くとしばしば「コロナ! コロナ!」という温かい励ましの声すらいただいた。きっと、育ちの良い子どもたちや、前途有望な若者たちに違いない。ただし足早に通り過ぎたのでどうだかしれない。