難民, 入国管理局, 収容

ヒエロニムス

 入国管理局に収容された外国人は、仮放免申請が許可されると、指定された保証金を払って釈放されることになる。保証金の額は通常は30万から50万程度だが、これより高い場合もあれば安い場合もある。

 仮放免の「仮」というのは、本来ならば収容すべきだが、いろいろな事情から一時的に外に出しますよ、という意味で、扱いとしては被収容者だ。だから、就労や移動などの点で制限がある。就労は通常は禁じられている。移動の制限とは、許可なく管轄区域から出てはいけないというもので、例えば、東京の住所を持つ仮放免者であれば、なにかの用事で東京の外に出る場合には、あらかじめ品川の入管に行って許可を得ておく必要がある(理由や行程を記した申請書を提出しなくてはならない)。

 保証金はこれらの条件に従わなかった場合、たいていは不法就労で捕まった場合だが、没収される。今「没収」と書いたが、実は「没取」だ。この両者には違いがあり、私はこれに気がつかず、長い間「没収、没収」と言ってた。刑罰として金品を取り上げられる場合は「没収」、保証金などが条件違反により返還されない場合は「没取」というのだそうだ。

 もっとも、この間違えはよくある。例えば、カルロス・ゴーンが逃げて、15億円の保釈金が「没収」されたなどとしばしば報じられている。これも正確には「没取」であろう。

 この度、私のもとに入管から送られてきた「保証金没取通知書」は、私が長い間、保証人をしていた仮放免者についてのものだ。難民認定申請中である彼は何らかの理由により仮放免を取り消され、入管に収容されたのだ。その理由については、彼から連絡がないのでわからないが、その理由により、保証金30万円のうちの「一部金90,000円」が没取されたというわけである。

 「ヒエロニムス」と題されたこの小文をここまで読んで、みなさんの中には不審の念に駆られる方もいるのではないだろうか。どうだ9万円を奪われた男のこの淡々とした書きぶりは!、と。 いやはや9万円をみすみす失ったというのに「没収」と「没取」の違いに気を取られているとは! いったいこの作者は底抜けの金持ちなのか、それとも、底抜けの馬鹿なのか? 中には、こんな想像をする方もいるかもしれない。いや、こいつめは、保証金を取り返す裏の手口を知っているのだ! なんたる食わせ者だ!

 だが、いずれも当を得ていない。9万円の「保証金没取通知書」を受け取った私が淡々としていられる理由(まるで本のタイトルのようだが)、それは簡単だ。これが他人の金だからである。保証金を準備したのは仮放免者側で、身元保証人としての手続きを私がしたのである(保証金の出所に関しては規定はない)。

 もし、私の金だったら。

 いや、こんな文を書いてる暇なんてない。すぐさま入管に駆けつけて、収容されたばかりのその男を引きずり出して、全額残らず支払うまで、私の家の押し入れに収容することだろう。