苦い文学

幸せ

私は裕福な家庭に生まれたが、家庭内はいつもケンカばかりで私は幸せではなかった。私は良い大学に入り、そこで受けた教育により、親にも増して裕福な暮らしを手に入れたが、心はどこか虚だった。いくつもの恋の末に、一人の女性を妻とした。初めは甘かった生活も、年月が経つにつれ、苦くなり、私は息苦しくなった。

幸せはお金では買えない。どこかで聞いたその言葉が、私の胸の中に棲みついた。

いくどかの転機を迎え、私はさらに裕福になった。だが、私の心に空いた穴は広がるばかりだった。ある日、朝、ぼんやりとコーヒーを飲んでいるとき、その穴が自分を食い潰そうとしているように感じられた。どんなにお金があっても、幸せはお金では買えないのだ。絶望に慌てふためきながら、私は信頼できる先生のもとに駆け込んだ。すべてを打ち明けるうちに、私の両目から涙が溢れ出た。先生は優しくいった。

「あなたの持っている財力を人のために使うのです」

私はその日から、もてる財力を注ぎ込んで、人々の幸せを破壊しはじめた。金があれば、快活な笑顔を、引きつった顔に変えるのは簡単だった。美しい命を、悲しく萎れさせるのは容易かった。幸せはお金では買えない。だが、幸せはお金で壊すことができるのだ。

そして今、私は、人々の幸せをお金で破壊しているときがもっとも幸せだ。結局、幸せはお金で買えたのだ。

私はかつて不幸だった。苦しんでいた。それも、誰かの幸せだったのかもしれない。