苦い文学

天国への道

私は死に、ありがたいことに天国行きと決まり、天国の門にいたる行列に並んでいた。

しかし、その行列、並大抵のものではないのだ。ずっとずっと先まで続いていて、天国の門など見えやしない。もしかしたら自分は最後尾なのでは、と不安になって(というのも生前、「最後尾の男」という長編小説を読んだことがあったからで)振り向く。いや、そんな心配などないくらい後ろにも行列が続いていた。

こんなに天国行きの人がいるなどとは思いもよらなかった。もし知っていたら、生前たくさんの人とうまくやることができたかもしれない……。

列は順調に進んでいた。だが、やがて私たちの列に並走する別の列が出現した。その列は私たちと同じように前進していた。そして、2つの列が肩を並べるほどに接近したとき、向こうの列の連中が叫んだ。

「おいおい、割り込みするな。俺たちの後ろに並べ!」

私たちも負けじと怒鳴った。「割り込みしようとしているのはお前らだ。間抜けな奴の後ろに並んだのを後悔するがいい!」

私たちは互いに肩で押し合い、小突きあい、突き飛ばしあった。「ここまできて後ろに並べるものか! 地獄に堕ちろ!」 こう私たちの誰かが叫ぶや、双方の怒りが爆発し、殴り合いになった。

もみくちゃになり、あわやと思わせる瞬間もあったが、私たちのほうがより本当に天国にふさわしかったものらしい。連中は蹴散らされ、ついに後ろのほうに潰走した。私たちは勝鬨を上げた。

「俺たちが本物なんだ! 列の本流を死守した!」

そして、再び列は穏やかに順調に進んでいった。ある地点で列は3つに分かれた。私たちは互いに別れを告げ、それぞれ選んだ列に進んでいった。

そして、さらにその列はいくつかに分かれ、さらに分かれ、分かれ……。

気がつくと私はひとりで暗い坂道を下っていた。

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