Tunisia, 口承文芸

現代のフダーウィー:チュニジアの語り部(6)

 そこで、去年の夏のチュニジア調査のさい、スーサに行ってみることにした。スーサは、チュニジア第3の規模の都市で、それほど大きくはないが、やはり歴史のある都市だ。インターネットの記事によると、スーサの図書館がフェスティバルの運営に関わっているようだった。そこで、地図を見ながら図書館に行ってみることにした。だが、目当ての場所に行ってみても工事中の建物があるばかりでなにもない。しばらく歩いてから、近くのカフェで尋ねてみると、まさしくその工事中の建物が図書館なのだった。改築中というわけだ。

 これで手掛かりが失われたわけだが、歩き回っている最中に、スーサ文化委員会の建物を見つけたので、そこに行ってみることにした。

 建物に入ると、受付らしき人がいる。フダーウィーのフェスティバルとフダーウィーのことを尋ねる。受付の人がフェスティバルについて答え始めると、どこからか1人の年配の男性がふらりと現れて私のそばに立った。なんだめんどくさいジジイが出てきたな、と思う私に、受付の人はこういったのだった。

 「彼もフダーウィーだよ」

 私がフダーウィーに会ったのはこうした次第であった。

 この人はウェルギー・シェドリー(Ouerghy Chedly)という方で、俳優をされているとのことだった。つまり、俳優としての活動の一環として語り部としても活躍されているのであり、伝統的なフダーウィーとは異なる。

 しかし、それはちょうど遠野で語り部として活動されている方が昔の語り部とは異なるのと同じだ。つまり、一度廃れかけた語り部の文化を復興しようという世界的な潮流の中で捉えなくてはならない。

 そして、スーサで毎年開催されているフダーウィーのフェスティバルも、世界の語りの文化の交流発展の場として企画されたものとのことだった。期間中は、アラブ世界の語り部のみならず、ヨーロッパの語り部が、スーサの様々な場所でその話芸を披露する。

 また、語りに関するシンポジウムも開催され、研究発表もあるという。このフェスティバルは、北アフリカでは最初のもので、これまでに19回開催されてきた(ちなみに、ジャスミン革命で騒然としていた2011年には開催されなかったという)。

 さて、その翌日の2019年8月14日、シェドリーさんと彼の行きつけのカフェで会うことになり、その日の午前と、8月16日の午前、彼の友人たちに囲まれながら、フダーウィーについてお話を伺い、また、いくつかの物語をビデオで記録することができた。(つづく)

インタビュー中のシェドリーさん。