真実の記録

たった一度の人生

年老い、もはや死を待つばかりとなった私は、最近、死後の世界について研究をしている。

ついこの間も、書店で『魂の行方と転生の秘訣』という本を見つけた。目が飛び出るほどの値段の本であったが、思い切って買った。

その中に大いなる感銘を私に与えた個所がある。覚えとしてここに引用しておきたい。

(以下引用)人間の魂は、いくども生まれ変わりを繰り返す。そして、いくども異なった人生を送る。そのようにして、魂は人生という場で修練を積み、苦難を経験し、より優れた魂となっていくのである。

……だが、魂の世界には根本的な問題がある。考えてみたまえ、もし、すべての魂が、数知れぬ転生を経た結果、完全に優れた魂となってしまったら、もはや修練の場としての人生そのものは不要となってしまうのではないだろうか。それゆえ、この世界の維持には、いまだ修練を積んでいない新たな魂が絶えず必要とされるのである。

……その結果、やがて魂の世界では、魂の過剰という問題が発生した。この問題の解決策として導入された新システムが、魂の消滅である。そのプロセスはきわめて簡単である。魂自身に、その人生の舞台において、これ以上の転生を望むかどうかを決めさせるのである。

……ゆえに、転生を望む魂は「たった一度の人生だからすきなことをしよう」とか「たった一度の人生だ、思い切って買っちゃえ」などと、人生において口にしていけない。その言葉が口から発せられたと同時に、それはまるでパスワードのようひとつのシステムを発動させるのである。その言葉を口にした魂は、輪廻のプロセスから排除され、死と同時に消滅することが、不可逆的に定められる……(引用ここまで)

ああ、魂に関するこの高価な本を買うか買うまいか大いに迷った私は、「たった一度の人生だから」と独り言を言いながら購入を決意したのであった。