出版物のためのコンテストは世に数あれど、まったく売れない本を選ぶコンテストがあるのはあまり知られていない。
未刊行の原稿を対象に行われるこのコンテストは、出版されてもまったく売れる見込みのないと判定された図書に、出版資金を助成する、というものだ。
まったく売れないのならば出版などしないほうがいいと思うかも知れない。だが、そう簡単にはいかないのが世の中だ。売れなくても出版するのが文化だという考え方もある。
しかし、それでは出版社が倒産してしまう。すると多くの人々が職を失い、家族が路頭に迷うことになる。貧困層の増大は犯罪の増加に直結しており、治安の悪化は政情不安を招来し、ついには国家転覆へといたる。売れない本に助成を出すことはなんとしても必要なのである。
このコンテストは年に1回開催され、我こそは売れない、という書き手たちが、まったく売れる要素のない原稿、いやそれどころか、売れない要素をこれでもかというくらいに盛り込んだ原稿を苦心して仕上げ、こぞって応募する。
売れない、といっても、デタラメを書いて送ってもダメだ。内容がしっかりしていて、しかも誰も手に取らないという、絶妙なバランス感覚がものをいうのだ。
選考する側も、少しでも売れる要素ありと判断すれば、容赦なく落とす。まことに厳しいコンテストなのだ。
応募は秋に行われ、結果が出るのが翌年の4月だ。選考から漏れた人々は、悲しそうだが、少しうれしそうな顔をしている。選ばれて助成の対象となった人々は、うれしそうな顔をしながら、少し悲しそうだ。