さて、私は正気を取り戻すと、じっくりとその紙を読み出したのだが、そこにはこう書かれていたのだった。
かねた一郎さま 九月十九日
あなたは、ごきげんよろしいほで、けつこです。
あした、めんどなさいばんしますから、おいで
んなさい。とびどぐもたないでくなさい。
山ねこ 拝
いや、間違えた。こうだ(これはビルマ語版なので全てにビルマ語訳が付されている)。
質問票
1 あなたは現に有する在留資格に該当する活動(以下「当該活動」といいます。)を行っていますか。
□ はい → 質問は以上です。下部に署名してください。
□ いいえ → 以下の質問にも答えてください。
2 あなたが当該活動を行わなくなったのはいつからですか。
年 月 日 西暦で記載してください。
3 あなたが当該活動を行わなくなったのはなぜですか。具体的に記載してください。
→ 質問は以上です。下部にも署名してください。
以上の記載内容は、事実と相違ありません。
この質問票を私の在留審査の資料として使用しても構いません。
申請人(代理人)の署名 年 月 日
すでにお気づきであろう。
「この質問票を私の在留審査の資料として使用しても構いません。」
この一文が曲者なのだ。つまり、これは単なる「質問票」なんかじゃない。これは難民審査なのだ。もう、審査が始まっていたのだ。申請者自身がそれと気がつかぬうちに!
まさにトラップだ。
申請しに来たばかりで右も左も分からない申請者から、うかつな一言を引き出すために設けられた罠。我が国の難民審査の剣呑なタチに気づいて申請者が用心深くなる前に入管が掠め取ったその一言は、後から効いてきて、難民の命取りとなるだろう……。
