博士論文には少し書いたが、それを本にした『アラビア語チュニス方言の文法研究—否定と非現実モダリティ(ひつじ研究叢書(言語編) 第187巻)』からは削ったことを詳しく述べたもの。どうして削ったかというと、本では共時的な問題を主として扱ったので、通時的、つまり歴史的な考察を含めるとブレてしまうから。
さて、チュニス方言に限らず、多くのアラビア語方言では否定文を作るときに否定辞ともうひとつの別の要素で動詞などを挟む。この否定の仕方の発展についてはいくつか説が出されているが、この発表はその発展そのものを扱うものではないにせよ、新しい観点を組み込んで作成したものだ。
発表は、ポーランドのポズナンで 2024 年 9 月に開催された 21st International Congress of Linguists のモダリティ関連のワークショップ “At the fringes of modality: new insights on its definitions, limits, and categories.” でのもの。
モダリティの捉え方には、狭いものと広いものがあり、私はどちらかというとゆるく捉える方なので、それで通用するかな、と思っていたが、“fringes(周辺)” というだけあって受け入れてもらったのはありがたかった。
International Congress of Linguists は世界最大規模の言語学関連の学会で、5 年に一度開催される。日本からも多くの参加者があった。日本語そのものに関する発表が多いというわけではなかったが、日本語に関係のない発表でも日本語に関する例や研究がしばしば引用されていた。もちろん英語の比ではないが、日本語も言語学研究の上で、一般的に参照される言語になっているという印象を受けた。これは、日本人を含む、多くの研究者の努力によるものだと思う。